五十嵐毅の麻雀きょうぎ 第5回 敗退確定者ができないシステム

 前回、RMUが用いている新決勝方式を紹介しましたが、その際、

《実はいつゴールになるかわからないタイトル戦があります。日本麻雀101競技連盟の「八翔位戦」とRMU主催の各タイトル戦です》

と、101競技連盟の「八翔位戦」にもチラッと触れています。

 実は、僕はこちらのほうが好きなのです。今回はこの八翔位戦のシステムを紹介したいと思います。

勝敗評価だから可能な延長戦システム

 八翔位戦を紹介する前にまず、「101」という麻雀がどういうものかを説明します。

 これはトップがプラス1昇(勝でなく昇の字を用いる)、2着3着は0、ラスがマイナス1で評価されます。点棒の多い少ないで数字が変わるポイント評価とは異なるデジタルな評価です。白黒のはっきりした勝敗評価ともいえます。だからか、101では成績表を星取り表とも言います。

 裏ドラ一発無し、アガリ点の計算が一般と違うなど、皆さんがやられている麻雀と違うところはいくつかありますが、とにかく「+1、0、△1」のみっつの数字しかない評価法なので、同昇(同点)になりやすい。首位が同点で複数いるなら、これは延長戦にするしかないですよね?

 八翔位戦決勝のシステムは、

・10回戦制、単独で3昇以上の首位者を優勝とする。

・10回戦終了時に単独で3昇以上の首位者が発生しなかった場合は延長戦を実施する。

とあります。

 しかし、首位者がさらにスコアを伸ばさないように、みんな狙ってきます。簡単に2連勝3連勝させてもらえるわけがない。ということで、上記の条件を満たして既定の10回戦で終了するのは実に難しいことなのです。

 なので延長戦に入ってからが本当の勝負、八翔位戦の醍醐味が味わえる――は言い過ぎかも知れませんが、参加する人たちはみんな延長戦上等くらいには思っています。

 ちなみに予選は1卓から上位2名勝ち上がりのトーナメント方式ですが、ここでも上位2名が確定しない限り延長戦になります。

 話を決勝に戻します。

 10回戦を終えて延長となった場合は首位者のスコア+1昇に単独で到達した者が優勝となります。

 Aが1昇、BとCが0、Dが△1のスコアで延長、11回戦になったとします。

 この回で、首位者のスコア+1昇に単独で到達できるのはAだけです。これを「決着権を持つ」と言います。

 この回、Bがトップ、Dがラスだったとしましょう。スコアはこうなります、

A+1、B+1、C±0、D△2

 「決着権を持つ」のはAとBの二人になりました。12回戦、どちらかがトップならば終了です。

 現在一人マイナスのDはトップが欲しい。しかし、それが叶わない場合は、Cを押し上げることになります。他の二人がトップでは終わってしまうから。

 その結果、

A+1、B+1、C+1、D△3

となったとします。

 他のタイトル戦ならばDはいわゆるメナシ状態といっていいくらい満身創痍ではないでしょうか。しかしゴールが定まっていない八翔位決定戦ではそうではないのです。

 13回戦、決着権を3人が持っているため、こんどこそDがトップを取らない限り終了なので、かなり決着する可能性が高いですが、ここでCが早々と親満放銃とかで脱落してしまったとします。そうなると、CはDに振り込みまくってDを押し上げることになります。AかBがトップでは終わってしまいますから。

 そして、

A+1、B+1、C±0、D△2

またもや延長……

 こんな感じで延長に次ぐ延長となることが多いシステムです。しかし、いつまでもメナシは出てこない。ここで例にあげた12回戦でのDのように△3と、ただ一人離されていても、やれること、やるべきことがはっきりと残っています。

 点棒を稼いだだけプラスが大きくなる麻雀と違って、マイナスしている者が大トップでいきなりの逆転勝利ということはありませんが、マイナスしている者はとにかく延長に持ち込みながら少しずつ差を詰めていけばいいのです。終わった瞬間100%の負けですが、延長に持ち込んでいる限り可能性は残るのですから。

 終わりが予測できない

 ざっと八翔位戦のシステムを紹介しましたが、どうでしょうか?

 敗退確定者問題を完全に解決しています。どんなにマイナスしていても、延長戦を続ける策は残されているからです。

 ということで、八翔位決定戦、長引くときは長引きます。

 実は私は35期八翔位なのですが、このとき決着したのは17回戦。

 しかし上には上があるもので、最長は21回戦での決着だそうです。

 手前味噌になりますが、35期に打った決勝17半荘、本当におもしろかったし、やりがいがあった。リードしているときはここで決めたい、リードされているときはここで決めさせない、その思いと緊張の連続でした。

 「やりがいがあって面白い」は、八翔位戦参加者のほとんどが思っているのではないでしょうか。

 しかし、プレイヤーとして魅力的なルールであることが、別の意味で弱点になっていると思うのです。

 それは「いつ終わるかの予定が立たない」ということ。

 立会人が「本日はここまで」と言えばそこで当日の対局は終了(通常は1日5回戦まで)なので、以降は別日になります。そこでまた延長になればまた別日……

 これではネットで対局を配信することも難しい。チャンネルを押さえる、スタジオを借りるにしても、いつ終わるかの予定が立たなければ、予約が入れられない。これではスポンサーもつきにくいだろうなという予想はできます。

 サッカーのワールドカップが終わったばかりのせいか、RMUの新決勝方式はPK戦に似ているように感じています。とにかく短時間で勝負が決まるでしょう。

 一方の八翔位戦はプロ野球日本シリーズ最終戦の引き分け再試合のような、とにかく「半荘一戦」の枠組みを崩していないので、こちらのほうがやりがいは格段に上だと思います。

 しかし、プレイヤーとしてもっとも面白いと思える部分が、見る側にかなりの負担をかけるという弱点にもなっているわけです。難しいですね。