マージャン競技を考える 第5回 ルールはなぜ変わるのか2

 やはり世間のパワーが圧勝

 土田さんが本サイトの連載で裏ドラの開示を提唱しましたが、今回はそれをもう少し深堀りしてみようと思います。

 裏ドラはリーチの特典ですが、リーチという役は当初、今のダブルリーチを意味していました。ですので、今のようにいつでもテンパイすればかけられるものは「途中リーチ」と別の呼び名を付けられたのでした。

 これについては、日本最古の麻雀競技団体である日本麻雀連盟内部でも議論があり、「途中リーチ」の採用どころか「リーチ*(今のダブルリーチ)」を廃止せよという意見も出たようです。

 その主張の根拠を推測すると、リーチによる思考停止に行きつくように思います。1巡(打)ごとに変化する状況に対応して打牌選択を繰り返していくのが麻雀競技の神髄であると考えるならば、最初からアガリ牌以外はどんな牌でもツモ切り状態のプレイヤーがいることは我慢ならんという論者がいても不思議ではありません。

 「まして、リーチ*などめったに出現しない役なのでなくしても何の問題もないじゃないか」などという議論を尻目に、世間の愛好家は「せっかくリーチという役があるんだから、1巡目にしかかけられないなんてセコいこと言うなよ」とバンバン(途中)リーチがかけられている光景が目に浮かびます。

 競技団体の会議はさぞ紛糾したでしょう。なくせという意見にも一理あるが、世間と隔絶したルールを堅持することに意味があるのか、と。

 

 さて、サッカーのワールドカップが目前に迫って来ました。仮にゴールの後に審判が大きなサイコロを二つピッチに投げ、ゾロ目が出たら4得点などというルールを作ったらどうなるでしょう。

 開催期間中は血で血を洗う内戦すら停まるほど、世界中のファンが熱狂する競技になり得たでしょうか?

 同様に裏ドラを見るまで得点が決まらないというのは、せっかくの競技性を損なうのではないかと土田さんや筆者は考えます。

 そこで土田さんは頭を捻り、ここまで定着した裏ドラをなくすのではなく、そのルールを活かした上でどうやったら競技に寄せられるのかという発想で考えたのでした。

 赤ドラは競技ルールに採用されるのか?

 「新宿には、流行を先取りする数多くのルールがよく生まれる。リーチ一発ドラが入れば満貫といったぐあいのインフレ化したルールはもう定着した。

 素人向きのインフレルールは、バイニン(編注:賭け麻雀を生計にする人)には向かない。

 裏ドラだ、一発だと走られて、つかないと軽く十万はいく。

 仮にきちんと打ち続けたとして、リーチ時のタイミングやら、安そうにみえて打った時の裏ドラにあたったり、なかなか理屈じゃいかないからだ。」(田村光昭著「麻雀ブルース」より)

 

 これは昔愛読した田村光昭さん(第2・5期最高位)の文章です。赤牌は元はブー麻雀の懸賞牌(ドラと違い、符を加算。筆者は赤一筒や赤三筒を見たことがある)でしたが、上記の著作の出版当時(1978年)には新宿独特のブー麻雀のルールにおいて3枚の5の赤牌がドラとして採用され、田村さんが「5環帯」と表現していたと記憶しています。

 筆者も関東に移住(1991年)してからは、赤5ルールを打つ機会が多かったのですが、アガる回数が多い者がよりプレミアを得られるものと捉え、歓迎していました。

 ただし、1日単位の結果は分散が大きくなるので、戦績をなるべく長期で捉え、一喜一憂しないように心掛けたものです。

 そう考えると、回数が限られているタイトル戦(決定戦で20回程度)で採用するにはかなりの方針転換が必要になります。

 赤ドラはリーチ&裏ドラと同じように、世間の麻雀には完全に定着しているので、過去のルールの変遷と同様、どのタイミングで競技ルールに入ってくるのか、それとも競技界が断固として拒絶するのか注目していくべきでしょう。(麻雀共同体WWの三人打ちの公式ルールには五筒赤五索赤が2枚ずつ入っています)

※参考文献 月間「麻雀界」連載「マージャンの文化史」西野孝夫編集主幹執筆