麻雀きょうぎ 第11回 見苦しいコシ牌

 前回の原稿で、

 『ヤマ(壁牌・ピーパイ)の一部がポロリとこぼれて見えた牌のことも見せ牌といいます。これも問題がないわけではありませんが、まずは「手牌からの見せ牌」に限って考えてみます』

と書き、第1章で手牌を倒した場合を書き、

 第2章で、

 『ヤマの牌をこぼすことも多い。配牌の取り出しのときなど危なっかしい手つきです』

 『3枚も4枚も倒したら、これはゲーム続行不可能として、アガリ放棄どころかチョンボになる可能性があります。このあたりは立会人の裁量に任せられます』

と、ヤマの牌がこぼれた場合も書いたつもりだったのですが、このあたりが明確に書かれておらず、不十分でした。お詫び申し上げます。

 

 では、これらの場合、協会ではどのような裁定が下るのかというと、実は決めていません。

 配牌取り出しの際に手牌やヤマの牌をこぼした場合は、ほとんどが配牌取り直しになりますが、他の場合はケースバイケースであり、立会人の裁定に委ねられます。

 競技進行中にヤマの牌を1牌こぼしたとしても、注意勧告だけで続行します。

 ケースバイケースであり、立会人の裁定に委ねられます。ただし、複数枚こぼしたら、ゲーム続行を不可能にしたとして、チョンボの裁定が下る可能性があります。

 「2枚以上こぼしたらチョンボとか、3枚以上こぼしたらチョンボとか、はっきり決めておけばいいのに」と思われるかもしれませんが、ルールに明記すると、悪用される可能性があります。

 たとえばドラポンが入っている局とか、すでにリーチが入っているとかの局でチョンボをすれば、その局を強制終了させることができます。

 チョンボは△40Pと大きいので、わざとやることはないと思いますが、決勝戦、あるいはリーグ戦の最終節、そこにだけはトップを取られては決まってしまうので、自分がペナルティを喰らってでもやり直したいといったケースもありえるわけです。

 もちろん、わざとでなくとも、ヤマの牌や手牌を複数枚こぼすことはあります。しかし故意過失にかかわらず、すでにリーチあるいは決定打をテンパイしている者にしてみれば続行したいでしょう。煮詰まっている局ほどチョンボを取らずに注意勧告の上で続行させることが多いとはいえます。

 ということで、ケースバイケースであり、立会人がその局の状況から判断して裁定するのです。

 

 コシ牌という言葉を知っていますか?

 フリー雀荘によく行く方たちにはおなじみかもしれませんが、初心者レベルではあまり使われてないように思います。このことについて書かれている初心者本を僕は見たことがありませんから。

 漢字で書けば「腰牌」です。「麻雀で腰なんか使わないじゃないか」と思われるでしょうね。

 実際には、腰が動いた牌ということです。

 上家が牌を切った。ツモりにいこうとしていたが、上家の切った牌を鳴こうかどうか迷って上半身が動く、つまり、腰がちょっとひねられたり、ピクッと動いた牌のことをいいます。

 「それなら、腰より肩のほうが大きく動くだろう。肩牌のほうがぴったりくる」と思われた方、僕も同意見です。でも、コシ牌は、麻雀の正式な用語かどうかわかりませんが、広く一般的なので、このままコシ牌でいきます。

 ペナルティを取るべきか?

 フリー雀荘ではどうか? 厳しくないというか、寛大な店では「ペナルティなし」です。

 ぺナルティを設けている店では「コシ牌ではツモアガリ以外アガれない」というのがほとんど。

 もしかしたら、「コシを使った牌では出アガリだけででなく、以降鳴くこともできない」とする店もあるかもしれませんが、僕はそういった店に出会ったことはありません。

 1枚目は迷って鳴きませんでした。すぐ上家が2枚目を切りました。これは状況が変わっています。残り枚数が明らかにちがいます。これを鳴いたらダメというのはとても厳しすぎると思います。

 これらのちがいはお店の方針としか言いようがありません。お客同士での和気あいあいとしたムードを重視したいか、勝負に厳しくしたいか……。

 ただし、ペナルティを設けているお店は、極力お客同士のトラブルを避けたいという思いがあるかと思います。「コシを使った牌では出アガリできない」とルールを決めておけば、あとはお客は従うだけで、「コシ使った牌で当たられたんだが」とクレームが来ることはないでしょうから。

 では、なぜペナルティがあるのか? これはやはり怒る客がいるからでしょう。「コシ使った牌でアガるのは卑怯」といった感情論があるように思います。

 しかし、なぜ卑怯なのでしょうか? ピンズでコシを使ってピンズが1枚もない手をアガったらこれは卑怯ですが、これはそもそもコシ牌以前に三味線行為です。

 当人が喰うかどうか迷った牌を、その後切るさいに覚悟を持って切るべきで、その覚悟がないほうが問題だと思います。 

 個人的には、ペナルティなしのほうがいい。というか、ペナルティがあるのは嫌いです。

 出アガリができなくなるというのは、当人が切ってもいないのにフリテンと同等になるということです。「これはコシ牌だから、あいつには安全牌」となるほうがゲームをゆがめていると思うからです。

コシを使うのは格好悪い

 プロ団体のルール表をすべて把握しているわけではありませんが、少なくとも日本プロ麻雀協会では問題視していません。

 理由は先に述べたように、「当人が切ってもいないのにフリテンと同等になる出アガリ不可」とするとゲームがゆがむから。さらに、回転椅子が30度くらい動いたものから肩がピクッと動いただけ――なんというかコシの度合いでも裁定が変わるような気がしますが、それをやっていては立会人が大変すぎるという運営上の都合も加えられます。そしてなんといっても、「コシ牌を切るときはそれなりの覚悟をしておけ、当たられても文句を言うな」ということです。

 ただし、これだけは言えます。「コシを使うのは格好悪い」と。

これを避けるには、これは鳴く、これは鳴かないと、前もって決めておくべきですが、鳴かないと決めていたのに同巡内にバタバタと3枚切られた――これはどうしようか考えてしまいますよね。

 二萬三萬四萬五萬五萬三筒四筒五筒六筒七筒七筒三索四索   ドラ四萬

 たとえばオーラス、トップの対門と4500差で2着。メンタンピンドラ1でどこから出てもトップのリーチを打つつもりでいたのに、下家が二索を切ると、いまのうちとばかりに対面と上家が合わせて切った。この上家の切った二索を平然と見送るのはなかなか難しい。

 「このあと自力でテンパイするとしても、おそらく3メンチャンから入って薄くなった二索五索マチが残る。それならば、チーして二筒ツモか直撃でトップ、五筒八筒は2着で我慢する半荘にするか……」

 1枚や2枚は見送る気であったのに、同巡に高目が3枚切られて、こんな迷いが出てしまうのもいたしかたないのではないでしょうか。

 他にも、予期せぬ牌、たとえば自分で3枚持っている牌の4枚目が上家から切られた。これなどもポンしたほうがいいのか、チーしたほうがいいのか、またはスルーか?

 たとえば、こんな手。

 五索六索六索六索七索七索九索  一索横二索三索 中中横中

 上家打六索

 七索ポンは考えていたけれど、考えていなかった4枚目の六索

 「ポンして六索3枚見せた四索七索マチ? いや、やっぱりチーして3メンチャンのほうが……いや、カンチャンテンパイとはいえ、まだまわりは警戒していないみたいだからスルーか?」

 他にも色々ケースはあると思いますが、リーチなどで状況が変わった瞬間なども含めて鳴くかどうか迷うのは仕方ないと思います。

 では、どうすればいいのか。

 迷う、考えるのは仕方ないとしても、そこでコシを使うのが格好悪いのですから、静止して考えましょう。

 最悪なのはこの形で喰おうか、こっちで喰おうかと指をあちらこちら動かすこと。これでは。「チーの形が2通りあるのか、ポンの形もあるのか」と、他3者によけいな情報を与えてしまいます。

 上家が切ったあと静止していれば、喰うかどうか迷っているのはバレバレですが、それ以上のよけいな情報をさらけ出さないために極力体を動かさず考え、考えが定まってから「ポン」「チー」の発声をする。指を動かすのはその後。鳴かないと決めた場合は黙ってツモ山に手をのばす。

 これを徹底させるしかないと思います。