麻雀きょうぎ <第1回>ノーテン罰符って何?

麻雀ウォーカーをご覧の皆様、始めまして。日本プロ麻雀協会という団体の代表をつとめております、五十嵐毅と申します。

麻雀業界に入ってかれこれ37年。もう古株になってしまいました。

さて、この稿の通しタイトル、「きょうぎ」をあえてひらがなにしました。

皆さんならどんな漢字を当てますか?

麻雀は楽しむだけでなく、成績を競いあう「競技」の面があります。プロが打つ大会はすべからく競技麻雀と言われます。

せっかく楽しい麻雀なのに、眉間に皺寄せて辛そうに打つなんて「狭義」な麻雀ですかね?

「経木」なんてのもありました。紙が高級品だった時代のメモ用紙代わり。主に写経に使われていたのでこう呼ばれたそうですが、僕が子供の頃は精肉店や鮮魚店でおなじみでした。カンナで薄く削った木は吸水性と抗菌作用があり、肉や魚を包むのにうってつけでした。まあ、文章を書き綴るとはいっても、お経を書くわけでなし、この経木はちがいますね。

麻雀プロを長くやっている間に、麻雀の競技性と現行のルールに色々と疑問を抱くようになりました。そのあたりを皆さんと一緒に協議していきたいと思っています。

ノーテン罰符は必要か?

もう、40年以上前のことですが、『月刊近代麻雀』(竹書房)の中で、ノーテン罰符の必要性を考える特集があり、プロの意見も述べられていましたが、賛成派と反対派を代表する意見は次のお二人。

「ノーテン罰符はギリギリまで相手のテンパイを読もうとするので技術向上になるし、終盤まで攻防があってゲームのコクを増している」(小島武夫プロ)

「ノーテン罰符は言ってみれば、野球で三塁残塁は惜しかったから点をあげましょうと言っているようなもの。何回三塁残塁が続いても0点は0点。麻雀も同様、アガっていないテンパイで点棒がもらえるのはおかしい」(古川凱章プロ)

お二人は阿佐田哲也さん率いる麻雀新選組の同僚で、決して仲が悪かったわけではありませんが、麻雀のルールに対する考えは水と油でした。

大衆迎合型と言うべきか、麻雀ファンが広く楽しんでいるルールを尊重するのが小島プロ。一方、麻雀の競技性を突き詰めて考えるのが古川プロでした。

皆さんはどう思いますか?

ちなみに僕は古川門下の末端に位置する者で、若い頃は先生のように「ノーテン罰符反対派」でした。

しかし、年齢とともに経験が広がり、考えも徐々に変わります。先生はノーテン罰符を野球の三塁残塁に例えましたが、他のスポーツやゲームと比較してもいいのではないでしょうか。

例えば柔道。昔は「一本勝ち」と技有り2回の「合わせ一本」しかありませんでしたが、国際化に乗じて「効果」「有効」「指導」なんてのが出てきました。ノーテン罰符は有効とか、あるいはノーテンの人が消極的で指導を受けて不利になるのに似ているかもしれません。

しかし、基本的にはやはり反対で、何より場三千といわれる動きが大きすぎると思います。

麻雀で、最低のアガリ点は1000点です。最低点とはいえ、ちゃんとアガった手よりも大きい点数がもらえることに疑問を感じませんか? 一人テンパイなら3000点ですよ。時にはアガらないほうが得するときがありますからね。

さらにもっと大きな問題があります。一人テンパイまたは一人ノーテンならはテンパイ者とノーテン者の間に4000点差が付きます。

二人テンパイならば3000点差。

点差が一定でないところが問題なのです。

最強戦での出来事

先頃行われた最強戦2022(主催・竹書房)で、出場者の河野高志プロが苦悶の表情を見せる場面がありました。

最強戦はトップだけが勝ち上がりとなる半荘一回勝負。

そのオーラス、点棒状況は、

 

東家・渋川難波プロ(日本プロ麻雀協会) 36700点

南家・奈良圭純プロ(日本プロ麻雀連盟) 32800点

西家・河野高志プロ  (RMU) 10900点

北家・佐々木寿人プロ(日本プロ麻雀連盟)19600点

 

トップの渋川プロと2着の奈良プロの差は3900点。渋川プロ一人ノーテン、または奈良プロ一人テンパイならば奈良プロが勝ち。

全員テンパイならば、点差このままで1本場に続く。

それ以外は渋川プロの勝ちになります。

以上の状況から、親の渋川プロはノーテン宣言をして手牌を伏せて流局終了にすることはできません。奈良プロがノーテンであることが確実ならばノーテン終了も可能ですが、そうでなければノーテン罰符の出入りで100点差負けとなる可能性大です。ということは、渋川プロはアガリを目指す、最悪でも流局時にテンパイ維持できるように打つことになります。

ということで、渋川プロがノーテンにできない、流局したらまだ続く、と踏んだ河野プロは喰ってテンパイを入れました。河野プロの勝利条件は三倍満ツモですが、勝負が続けば積み棒や供託棒が溜まって条件が緩和するかもしれませんから。

しかし、流局しての渋川プロの宣言は案に相違して「ノーテン」でした。テンパイを目指して手を進めていたのですが、テンパイすることができなかったのです。

競技麻雀では、流局時の宣言は「親から順に」と決まっています。

続く南家の奈良プロはもちろんテンパイ。

次は西家の河野プロ。ここで苦悶したのです。

親がノーテンでこの局で終わってしまうので、自分のテンパイにはもう意味がない。しかし自分の宣言で勝者を変えてしまう。

そんな役割は嫌だ、という気持ちは僕にもよくわかります。

結果から言うと、審判に即されて河野プロはテンパイを開示。北家・佐々木プロがノーテンだったため渋川プロが勝ち上がりとなりました。

なかなか宣言をしなかった河野プロのこの時の動向が物議を醸しだしたようですが、それはこの稿の趣旨ではありません。問題は先にも述べたように点差が一定でないところなのです。

この点に関しては競技麻雀の世界で以前から問題視されていました。

そこで、これを解決する画期的なルールが考え出されました。「差二千」と呼ばれる方式がそれです。

まず、これがどういうものか説明します。

 

一人テンパイの場合=ノーテン者が500点ずつ払ってテンパイ者1500点の収入

二人テンパイの場合=ノーテン者が1000点ずつ払ってテンパイ者1000点ずつの収入

三人テンパイの場合=ノーテン者が1500点払ってテンパイ者500点ずつの収入

 

こういったもので、どのような組み合わせでも点差は2000点です。親は2000点差が詰まることを覚悟すればテンパイ、ノーテンが選べます。

また、最小の1000点のアガリ・放銃で付く点差と同等で、アガリより大きいという感じはありません。アガらないほうが得という本末転倒なことは起きないでしょう。

この方式、競技的観点からなかなか優れていると思うのです。

「差二千」は日本プロ麻雀棋士会という団体で考え出され、‘99年から自団体のリーグ戦で採用され、その後、一般も参加できる「棋聖戦」でも採用されました。

当時、参加した選手の間からも「場三千より差二千のほうがいい」という声が多く、特に競技志向の強い方には好評だったようです。

もしも最強戦がこの方式ならば、当事者(今回のケースでは渋川プロ、奈良プロ)以外の同卓者の動向によって勝利者が左右することはなく、河野プロも悩まずに済んだでしょう。

しかし「差二千」、現在は下火になっています。棋士会が少人数の団体であり、影響力が弱かったこと、二見大輔プロ、現Mリーガーの鈴木たろうプロら主力選手がメジャー団体に移籍したことなどが原因でしょう。棋聖戦は3年間しか開催されず、リーグ戦は現在行われていないようです。

今回の最強戦2022での河野プロの苦悩ぶりは、SNSでも意見が飛び交い、プチ炎上していました。現在は競技麻雀を配信する麻雀番組が多く、それだけ麻雀を競技的に考える層が増えてきているからこそ、黙っていられなかったとも思うのです。

各麻雀団体、大会主催者はノーテン罰符について真摯に考えるべき時期になったと言えるのではないでしょうか。

ちなみに、考案者の一人である二見大輔プロは現在、日本プロ麻雀協会で理事をつとめています。

「今回の最強戦を契機に、差二千をウチ(協会)のルールにしようと、会議で提案するつもり。ただし、あれは裏ドラ一発ナシなので二千だったけれど、裏ドラ一発アリなら倍の差四千が一般受けすると思う」

と言っています。

点差固定に関して、僕は賛成ですが、最小アガリより大きいじゃないか⁉

差二千のままでいいよ~‼(会議が紛糾する予感)